贅沢の一つの定義として、その時期その場所にはないものを手に入れること、というのがある。北半球に住む私たちにとって、冬に泳ぎ、夏にスキーをすることもそうだ。となると、真夏、炎天下の都会でマイナス二度のスキー場で滑るのを贅沢と言わずになんと言おう。
7月15日に京葉ベイエリア南舟橋にオープンする、「ららぽーとスキードームSSAWS」は全長約490メートルのゲレンデを持つ室内スキー場。
SSAWSとはSPRING、SUMMER、AUTUMN、WINTER、SNOWの頭文字をとってつけられた名前だ。建設中から、その巨大な生き物のような形の建物は、道ゆく人の興味の対象ともなっていた。
この建物のデザインをしたのが及川政志さんである。及川さんの手がけるものはアミューズメント施設やスポーツ施設が多く、昨年オープンして、本物そっくりの波を作ったことで話題を呼んだ室内プールの「ワイルドブルーヨコハマ」も彼の手で計画された。及川さんは早稲田大学理工学部を卒業と同時に建築事務所に入り、設計者として22年生きてきた人である。昔から大勢の人に利用される施設を作ることが夢だった。
「大きいものの設計の依頼は多く、学校とか病院も手がけますが、お客さんが入って初めて生き生きと、楽しくなるようなアミューズメント施設は特に好きかな。お客さんが混乱せずに、自然と流れていくような作りにするために、ああでもない、こうでもないといろいろ考えたりするのがいいですね」
本物の雪で味わう、格別の爽快感
今回の計画は5年前に依頼を受け、デザインに3年、施工に2年かかった。途中ゲレンデの南北を逆にしたため、時間がかかった。
ゲレンデの雪は本物。約100個の造雪ノズルからゲレンデに噴出させる微妙な霧状の水滴が、空気中で凍結して雪になり、ゲレンデに積もっていく。雪質は天然のパウダースノーに近い。
「僕はね、ここを疑似体験を楽しむアミューズメント施設とは捉えていない。ここの雪は疑似体験でなく本物ですからね。スポーツとしてのスキーを楽しむ場所、つまりスポーツ施設と思っているんです。だから利用するお客さんも、思いきりスポーツを楽しんでもらいたいですね」と及川さん。
それだけに内装もできるだけ余分な装飾は省いた。設計のコンセプトは「スカンジナビアモダン」。スカンジナビアスキーの発祥地であること、北欧のモダンアートはシンプルで洗練されたデザインが多いこと、彼の地のスキー場はフィヨルドなどの関係で山が海にせまっており、ベイエリアであるこの場所と立地が似ていること、の三つの理由で決めた。色はゲレンデの雪が美しく見えるブルーを主に使い、外観はグレーと地味にしている。他の室内もカラフルなスキーウエアの人が入って初めて生き生きした表情を出せるように、なるべく色を抑えている。
デザイン開発にはデンマークのペア・シュメルシュア氏が参加し、壁画やモニュメントのデザインは同じデンマークのグラフィックデザイナー、ペア・アーノルド氏の手による。全体に雪山をイメージさせる空間づくりは気持ちがいい。
ゲレンデは傾斜の違う二つのコースが途中から合流しているので、初級、中級、上級のどのレベルの人も安心して滑れる。夜間照明もあるので、夜10時まで滑ることが出来るが、レーザーや音楽は一切なし。あくまでも、スキーの本格スポーツ施設としての使命感を忘れない。
「設計をしていていちばん嬉しいのは、デザインの骨格ができ上がるとき」という及川さん。今後も多くの人が楽しむ施設をいくつも作る。日本人の遊び心を待ってくれない。自身もスキーは大好きで家族で山に滑りに行くそうなので、せめてオープンの日には思う存分初滑りをたのしんでください。
|