「KJ」2010年1月号掲載記事より



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 空間設計創立30周年おめでとうございます。 最近一年間に竣工した建物で未発表の山口と熊本のプロジェEMILIA大宴会場への通路イメージスッチクトを中心にしながら、これまでの空間設計の計画の進め方や秘訣などを若い人たちに伝えていただけると有難いと思います。

及川政志(以下、)  あっという間でしたね。ただ個々のプロジェクトを見ると30年は、長かったのだなとも思います。 クライアントの方々、工事関係者、職人さん達など、多くの人々に教えて頂き、助けられました。
 また、「運」にも支えられました。 人に出会えたのも「運」。仕事に出会えたのも「運」ですね。
EMILIA中庭イメージスケッチ
アーカイブの手描きスケッチ
 先程少し時間があり、アーカイブを見せてもらいましたが、完成建物が絵コンテやイメージ画と同じ雰囲気なのに驚きますね。

 大半のプロジェクトで初期にイメージシートを作ります。このシートに絵コンテやイメージ写真、キーワードなどを継続して貼り込み、施主とイメージを共有しながら進めています。最終的には見積図面と共に参考資料として工事業者にも配布します。

建築はアートでなくデザイン
 常にイメージシートが先に作られますか?

 建築はアートではなくデザインです。機能が100%以上満足して初めて建築となります。まず、機能の理解や動線、平面・断面を、施主とそのスタッフの方々とテーブルを囲み、アイディアや案を出しながら試行錯誤していきます。
山口でも熊本でも、この会議出席の施主側スッタフが多く、大変でしたが、相反する意見が多く出た分だけ可能性が拡がりましたね。
ただ不思議に、機能や動線などの細部を考える前に、ぼんやりとした大まかなイメージのようなものが生まれることが多いですね。

 
 

イメージの共有新山口ウエディングコートEMILIA外観パース
− 
現場でイメージシートは、どのように使われていますか?

 
山口の工事では現場事務所にイメージシートやスケッチが拡大され10枚以上貼られていました。職人達は少しでも不明な点があると、絵を見に来てイメージを確認していましたね。 色とか雰囲気、強調したい部分などが一目で判ると好評でした。「この雰囲気には、こうしたほうが良いと思うがどうですか?」とディテールなどを提案してくる職人さん達も多かったですね。山口でも熊本でも「絵の雰囲気で実現した姿を見たいので差額は要らないから、良い材料と手間を掛けさせて欲しい」と同じことを言った職人さんもいてビックリしました。
 ゼネコンの担当者や職人などの、実際の作り手がイメージを膨らませ、共感を持って進めることが重要と思っています。図面とイメージ画の優先順位は、ほぼ同等とし、見積図書に加えています。

 そのような進め方は一般的なやり方なのですか?

 若いときに薫陶を受けた方々やタッチした仕事のなかで学んだやり方ですね。特にディズニーの計画の進め方とは似通っている部分がありますね。

 もう少し、詳しく聞かせていただけますか?

 「若い人達に伝わり易い」よう、若い時に共感した「言葉」も交えて話しましょう。

現場から学ぶ
 大学2年の時、稲門建築会の新年会で村野藤吾先生のエスコート係を仰せつかりご一緒した際に「興味があれば一度、現場に遊びに来なさい。学生の時に現場から学ぶことは多いよ」と言われ、赤坂離宮の現場で半日、先生の横で、現場のやり取りを見学しました。
 打合せの中で先生は、イメージを説明しては、「どうすれば出来るか意見を聞かせてよ」とゼネコン担当者や職人達にいろいろ質問されていました。職人のコメントやアイディアを受け、会話の中で次々に、イメージを実現していく活気ある光景に目を見張りました。
 「現場から学ぶ」「共感を引き出し実現する」素晴しさを見ました。

建築設計は岩登りと似ている
 卒業設計で吉阪隆正先生の指導を受けました。
 提出2週間前に、チェックを受けると「細部に気を取られ趣旨が判らなくなっている。もし、意匠設計で飯を食うつもりなら再度やり直しなさい。これでは卒業させられない。」と言われました。 理工学部長の時で、来客の都度、中断して夜遅くまで、いろいろなお話をして頂きました。

 「岩登りでは、壁を見上げた時の最初のイメージが大筋正しい。岩に取りつくと、ディテールが目につきルートから外れやすい。大事なのは最初のイメージを忘れず、かつ、それに捕らわれない柔軟さの両方を持つことだ。 一年遅れても、この辺の感覚を身に着けてから、社会に出たほうが君自身のためだ」と。
 えっ、留年したわけではないですよね。

 
 

デッサン力を磨け!デザイン力はあとからついてくるヒマラヤスケッチ
 勿論です。どうしても卒業したいと言うと「意匠設計で飯を食うのは並大抵のことではないよ。莫大な建設費が掛かる建築の設計を任せるには、きっとこいつなら何かやってくれるだろうという確信のような期待がなければ相手にもしないのだから」と言って「見栄えは悪くても良いから、ともかくゼロから遣り直しなさい。言葉やディテールに惑わされず、やってみなさい。」「デザイン力はついてくるものだから。しばらくは、君は見栄えは気にせずデッサン力を磨くことを心掛けなさい。岩登りで大事なのはデッサン力だよ」とも言われました。

 デッサン力とはどういう意味ですか?

 私も同じ質問をしましたよ。
デッサン力とは「本気で見る力」「大筋を掴む力」「見て理解したことを表現する力」ということのようでした。つまり「細かいことに捉われず本質の理解に努力しろ、そして理解したことを表現出来るようになれ」ということです。
デッサン力がつけば、「イメージを大筋として捉える事が出来るようになり、核心だけを、伝えられる。それは結果として信頼に繋がり、良いデザインにも繋がっていくものだ」というような話しをされました。
「デッサンする気で見ると、何でも身についた経験になる。人との会話も・・山も・・、悪天候も・雪も・・そして建築のディテールもおのずと描けるものだ・・」と。
ヒマラヤ写真 山によく行かれるのは吉阪さんの影響ですか?

 私は夏山だけで雪山や岩登りの経験は無いけれど。それでも話しは良く理解できたし、何よりも「デッサン力」という言葉が新鮮でしたね。それなら自分も出来そうな気がして、将来が急に開けた感じがましたね。
「デザイン力」では才能の有無とか考えたでしょうからね。 吉阪さん特有の比喩と教育者らしい導き方ですね。

 「導く言葉の力」というものが実際にあるのですね。

 
 

億劫がらず、すぐ動け!動かないのは怠け者!給料泥棒! 三育学院大多喜キャンパス初期イメージスケッチ
 導く言葉としては、卒業後勤務した梓設計の清田文永社長の言葉は、凄く強烈でしたよ。 
 清田さんに説明すると「何故すぐ手を動かさない!(=描きながら説明しろ!すぐ描いて確認!)」
 「その材料を使った実例を自分の目で見て来たか?何故すぐ足を使って確かめない!」その次の言葉が「君の給料はいくらだ?すぐ動かないのは怠け者の給料泥棒だ!」と続くのです。私は、何度もこのように怒鳴られましたね。そして後日、その内容に絡めてちょっとだけ褒めるのですよ。強烈な個性と気配りの人でしたね。 心底ムッとしましたが、三~四年もすると知らず知らずのうちにすぐ手を動かし、何でも自分の目で確認する癖がついていましたね。

三育学院大多喜キャンパス教室棟 実務でどう繋がりました?

 アッと思ったのは二七歳のとき三育学院大多喜キャンパスのコンペを勝ち取り、チーフ担当者として開発行為を含めて、役所の折衝、施主との打合せ、スケッチ、チームを動かすことなど総合的にやらせてもらい現場まで出たときでしたね。「大筋で捉え、大筋を外さず、手を動かして説明し、諸先輩から学び、現場から学ぶ」先生達はこのことを言っていたのだと色々な局面で実感する事ばかりでした。私の実務の原点ですね。
 この経験はTDLプロジェクトで大いに役立ちました。

 東京ディズニーランドの計画は少し詳しく聞かせてください。

 
 

東京ディズニーランドの計画は日本で初めてのことばかりTDL工事中
 TDL計画の問題点は、日本では多くの事柄がゼロからのスタートだったことです。
逆にゼロからの出発だったからこそ、私も三十一歳、ほとんどの人が三〇代前半でしたが、先入観なく遣り遂げられたと思います。
 建築法規、防災法規、構造基準などアメリカと大きく違うところに同じものを作ろうと云うのですから問題だらけでした。
浦安の液状化や不等沈下の問題も解決を図らねばなりません。

 デザインとエンジニアリングにショーライド制御など多くの専門分野が係わるプロジェクトで、ディズニーメンバーを含むチームの協議や官庁折衝には「大筋で捉える。大筋を外さない。核心を理解した代替案」など「デッサン力」や「柔軟さ」が多くの問題や困難を解決する原動力となりました。
 若手の割には開発行為を含め法規上の官庁折衝の経験も多かったことも助けになりました。

 苦労したでしょうね?
 苦労というより、戦場でした。それでも皆が若かったし、分担して助け合い克服していく達成感があり、みなが戦友でした。
 TDLの施設は、アナハイムとフロリダの二つのパークの「いいとこ取り」の切り貼りでしたから、梁の位置や必要スペースなどで、納まらない部分が多かったのです。
 従って、二つのパークのショーとライドの図面もすべて照合しないと施工図承認ができず、コンクリートを打つ前夜は大勢が徹夜でチェックでしたね。
ゼネコン担当者が「承認サインをもらうまで動かない」と言って、横でじっと待っていましたから。

 
 

独立してエルムヒルズNARISAWA
 独立後の初仕事は何ですか?

 学生の時、増改築の設計をした父の友人宅に会社設立の発起人になるのを頼みに行ったら「数ヶ月後には25m道路が完成する。家を建替えたいからまた設計してくれ」と頼まれました。最上階を施主住宅とし、延べ床面積5,400uの賃貸マンションが初仕事でした。
東京衛生病院(玄関棟・産科婦人科棟・サフラン寮) その数週間後の正月にひょんなことから東京衛生病院の食堂の改修を頼まれ、引き続いて、玄関 棟、人間ドック病棟、歯科診療棟、緩和ケア病棟、内科病棟、エネルギーセンター産科病棟、医師・看護士寮と24年に渡り順次増改築による建替えの設計をしました。

 ディズニーランドのほうはどうなりましたか?TDL_SyowBase2000断面スケッチ

 ディズニー側からOLCに対し、将来計画を含めて組織では無く人材を残すべきだという強い要請もあり、引き続き米国と行ったり来たりして、いろいろな計画にタッチしました。TDL建設時は切り貼り図面がディズニーから提供されましたが、オープン後は、計画のコンセプト段階から参画し、平面計画は勿論、ショーやライドのデザインにも意見を求められるなど、貴重な体験を重ねました。
滅茶苦茶忙しかったですが、私は36歳、スタッフの多くは20代半ばでしたが、短期間で多くの経験をさせて頂きました。

 
 

ストーリーボード
 ディズニーの計画の特徴はどんなことでしょうか?
 アイディア段階からまとめるまでは映画の作り方のようです。   
 絵コンテやアイディア、ストーリーの断片をカードに描き、3ft×6ftのコルクボードにピンで留め、このストーリーボードを囲みディスカッションやプレゼンをしながらプロジェクトを進めます。

ディズニーの価値観SCSE
 大きな特徴は価値観と情報量です。最終目標はゲストのハッピネスですが、そのための価値基準竣工記念品(TDS・舞浜リゾートライン・TDLSyowBase2000)がSCSEです。
  Sはセーフティー(安全)
  Cはコーティシー(礼節清潔)
  Sはショー(見る・楽しみ)
  Eはエフィシェンシー(効率)
安全と効率という機能が優先順位の上位です。

 ウォルト・ディズニーは幼い頃から観察が好きでデッサン力も抜群でした。ミッキーマウスもネズミの観察から誕生しました。
 彼はディズニーランドの計画に先立ち、「失敗例は宝の山」と言ってスタンフォード・リサーチに世界中の遊園地の観察と失敗原因を調査させました。
 「宝の山」の産物がSCSEです。

IEのコメント
 ディズニーランドでは半世紀も前から、IE統計課(インダストリアル・エンジニアリング)で、各入口にターンスタイルを設け人数・時間・季節・天候などの利用統計を取り、投資効率、規模効率・立地効率・傾向などの分析と予測を行っています。   
 計画の初期には数回このIEが出席してコメントを述べます。
 例えば「広場に面したShopは売れないがレストランなら繁盛する」、「幅員●mの通りに面するShopの売れ行きは良いがそれ以上になると急に落ちる」「見る方向を限定したショーの人気は長く続かない」などの多くのコメントは具体的で面白く、分析結果を解り易く蓄積しているのに驚きます。

 真っ暗なシーンでも、コストをかけて作り込み、見る方向や演出を固定しないのも無駄ではなく、IEからの理由があったのです。 
 ゲストは自由に見たい方向を選べますし、照明の向きや照度を変えるだけで、ゲストは新しい発見をし、何回行っても主体的に新鮮な体験ができるのです。

 
 

SSAWSやWild Blueの依頼SSAWSゲレンデと海から見た外観パース
 SSAWS等の大型施設も設計依頼されたのも興味深いですね。

 スキードームSSAWSの設計依頼理由は、順に次の三つでした。
@ 大量ゲストを自然に導く動線計画やゲストコントロール経験がある
A 特殊エンジニアリング分野のチームコーディネート経験がある
Bテーマ化の経験が豊富で効率的な大型施設テーマ化のノウハウがある
WildBlueイメージスケッチ1入口から見た海側風景



WildBlueイメージスケッチ2海から見た浜辺側 ワイルドブルーのほうはSSAWSの半年遅れでスタートし、SSAWSの実績での依頼でした。
イメージシト集やIE分析の手法など空間設計の今の計画手法が確立したプロジェクトでした。

韓国EuroTown模型いろいろな分野
 住宅から学校、病院、介護、研究所、工場、結婚式場、物販、宗教施設、レストラン、オフィス、レジャー施設と分野が広く、また海外でも仕事をしており、小規模の設計事務所では珍しいですね。

 住宅は友人の自宅か別荘だけです。設計コンペでの仕事もいくつかありますがほとんどは知人や友人やこれまでのお施主さんの仕事かその紹介の仕事です。海外は香港、韓国、ベトナムでレジャー施設や工場などを設計しました。  EuroTownイメージスケッチ
未知の分野の建物でも設計できたのは私の原点であり、事務所の原点でもある「デッサン力」とディズニーでいろいろな分野の人たちと出会えたおかげだと思っております

どのような仕事をしたい?
 やはり30年のお話しは歴史を感じましすね。機会があればディズニーの話もまた聞きたいです。
 最後に、空間設計は「今後どのような仕事をしたいか?」お聞かせ下さい。

 これ迄も、これからも、空間設計の目指す仕事を表現している「ウォルト・ディズニーの言葉」を紹介しましょう。
「D/L成功の自信」を聞かれ(注1) 
 「成功する保証なんてどこにもないよ。私が確信しているのは、クリエーターと職人が誇りと感動を持って創った空間では、キャストは必ず感動を受け継ぎ、その空間で働くことに誇りを持つ・・。 そんな空間とキャストに出会ったゲストは必ず感動と、ハッピネスを体感する・・」と。

 空間設計の各スタッフと、工事関係者や職人達のそれぞれが創る「誇り」を持てるような空間。
そしてクライアントの従業員の一人一人が「誇り」を持って働ける空間を創り続けたいですね。

(注1)工事費増大でABC放送がスポンサーを撤退した時の記者会見でウォルトへの質問

 

 

 

 

 

 

 

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