スカンジナビア・モダンの−演出者たち
”ザウス”はその姿の特異性や新しいスキー場の概念を提起するといった様々なインパクトを携えて1993年7月15日にオープンしている。
この開発段階で構想された”都会のスキー場”という基本的なテーマの整合性は、
開業以来の実績が既に証明したといえるだろう。
ここではこのプロジェクトに携わった2人のキーマンに当時を回想してもらいながら"ザウス”の実像に迫ってみる。
及川 政志 氏 (株)空間設計−基本設計・デザイン開発
及川政志氏、47歳、(株)空間設計代表。テーマパークや「ワイルドブルーヨコハマ」といった比較的大きなアミューズメント施設やスポーツ施設を手がけてきた人物である。
「最初に”人工スキー場”の話を聞いたとき、直感的に”面白い”と感じました。ひとつは人間的な関係から、もうひとつは自分自身がスキーを楽しんでいるという経験からです。
この手のプロジェクトで大切なのは発注者側の責任者の意思なんです。プロジェクトマネージャーの斎藤敬義氏とはテーマパークの仕事で一緒だったことがあり、彼の感性と勘の良さ、判断の速さに敬服していましたから。
基本テーマは”都会のスキー場”。それも疑似体験的なものでなく本物であることを前提にしました。
出きるだけシンプルに、ストレートな表現をしてみたい、という感じでこの仕事を請けることになりました」
及川氏は、このプロジェクトの基本計画・デザイン開発の責任者として参画。以後、現在も定期的にザウスのその後をクリエーターの視点で見守っている。
「設計のコンセプトはスカンジナビア・モダン。このキーワードを抽出する過程ではアルプスもアラスカも候補にあがっていました。最終的に北欧を選択したのは、スカンジナビアがスキーの発祥の地であること、そしてフィヨルドに象徴される水辺のイメージがベイエリアと重なり合うということでした。
また別の視点では北欧のライフスタイル、シンプルなイメージ、清涼感、こうしたトータルなイメージもザウスと連動する形になりました」
インタビューの途中、北欧という言葉を弾みにして意外な発言があった。簡素で機能的な北欧デザイン、という世界を超越した、実に興味深い示唆に富む発言である。
「デンマークの首都、コペンハーゲンに何回か行って思ったのは、最初の印象はとてもローカルな感じなんですね。ちょっと足を延ばせば田園風景が広がります。ところがよくよくみると、コペンハーゲンというのは実に都会として成熟した姿があるんです。
人口規模も適正ですし、豊かな緑と水辺のある生活。ここで生活している人達は、とても豊かなシティ感覚をもっていることに驚きます。スカンジナビアの洗練さはこうした土壌に育まれてきたのかと思います。
”デザインは機能を超越する”これがザウスを計画する中での合言葉の一つでした。
テーマパークのデザインではテーマ化するという意味でデザインが優先しています。でもテーマパークに限らず、本来、機能を超越したところにデザインがあるんです。機能が満たされることは当然のことで、それとは別の次元でデザインは存在します。
スカンジナビアデザインの特徴は、まさに機能を超越していることです。しかも機能に対立することなく実に良いハーモニーを響かせていることです。
この辺りが洗練さと優しさを感じさせてくれるのではないでしょうか。
ザウスの設計思想の根底にはこうしたスカンジナビア文化圏に対する畏敬の念とでも言うか、理想のライフスタイルへの憧れが反映されているともいえるでしょう」
デコラティブなものを排するという考え方は、エントランスから館内の随所に至るまで徹底され、白い壁にライトグレーのカーペットというインテリアは無機的なほどシンプルな世界を主張している。こうした世界だからこそ逆にカラフルなスキーウェアをまとったゲストがより効果的な”演出者”になりえるのだろう。
「本物という考え方がある限り、ザウスは多くの支持を集めるもの確信しています。ザウスは従来の都市型レジャー観を一新する新しい創造物ということができるでしょう」
(スカンジナビアモダンの演出者たちの記事から転載) |